2009-07

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友人の写真に埋め込んだ詩


その薬は海からとれたもの
耳をすましていたら
無垢の太もものあいだに砂のようにたまる
発火する虚空のように
瞬時に私の息がふくれるように
きれいな緑色の粉が練り込まれる
白い息にはながすきとおる
肺にうっすらと塩味がしのびこむ
日が暮れる瞬間に
私は炎に飛び込む
永遠の砂浜は私の胸そのもの
時代は過ぎ去り
残火のくすぶる砂浜には
女たちが素肌をうずめている
砂から見え隠れする
あどけない瞳と乳房が
柔和に息づいている
私は上品な粉の菓子を口にする
舌のうえの遠い壁画
全身の細胞に息がすきとおる
水平線にふちどられた炎のような女たち

美しい女教師の思い出


私たちは事前にメールを交わして
あの列車で出会うことになっていた
昔、薄暗い礼拝堂の中で涙を交わした記憶
冷たい壁に刻まれていたのは
私が子供の頃に刻んだ呪文
お互いの胸の中で生まれて初めて許された安息
冷たい大気の上には無数の噴水に支えられ
淡いベールに包まれた子宮があった
民族衣装を纏った少年が
時とともに模様の変わる絨毯を見せ
煙を文字に変える魔術を教えてほしいという
私が女性でなければ伝授する術がないと言うと
彼は私の身体をちぎって色とりどりの温泉へと突き落とした
そのにおいはとても耐えられるものではなかったので
私は怒って街を出た

私が雇ったドライバーは言葉の通じない少女だった
彼女はすべてを抱擁の波で私に伝えた
彼女は農夫であり砂漠の競技者であると言う
何度愛し合っても翻訳ができない記憶がある
私はあの人の学んでいた校舎を訪れたことがある
でも中に入るとすべては朽ち果てていた
私は大昔の女教師の写真に何故か魅惑されてしまう
誰だろう
私たちの波打つ胸のなかで時間はあえいでいた
あの子はすぐに意識を失ってしまうのだから
彼女は何かを必死で伝えようと
私を地の彼方まで連れ回した
虹色の土埃
毒水のふりそそぐ滝
僧侶たちを傷つける痛々しいガラスの参道
旅人を誘惑する料理人
彼は異国の文字で書かれた文章に恐れおののく
まるで神の断罪を恐れるかのように
彼は私と彼女と意味のない言い争いをする
誰も来ない美術館で愛し合う女たち
鳥たちに捧げられて穴だらけの城塞
抱擁の後に太陽に焼かれ
私は死の淵をさまよい
彼女は私を犯して蘇生させ
そして鐘楼に吊されて太陽に焼かれ
少女は制服を着て変装し
使用人にしろと泣きわめく
黒い服をきた年のわからない女が
私に何かをささやく
施しを受けたいというのか
何かを売ろうというのか

そしてその時がくる
またこの映像だ
私は風景を飲んでその陶酔を描き続けることができれば
ほかには何もいらない
本当にもう何もいらない
それでも私は呼ばずにはいられない
受け取ってほしいのだ
虹色の試験管に花から抽出した香りたち
どの色を選ぶかはよくわかっている
間違えることは決してない
私たちはその列車であわなければならなかった
私は彼女にそのなにやら恥ずかしげな色を
渡したくてたまらない
だってそれは彼女の一部の液体だから
そうすればあのドライバーに会わせてくれる
演劇のように完璧に段取られた
あのホテルのロビーでの偶然の出会い

彼女はその獣じみた数々の罪悪の場へと
私を連れて行こうとした
ワイパーにあわせて鼻歌を歌いながら
砂漠と氷河が同居する秘密の自然だった
私は驚愕した
そこでは
大気と水と大地が本当の無限を体現していた
夕日の中で抱擁の触感が遍在していた
彼女は初めて「すべてはにおいでわかるのよ」
とだけささやいた

言葉を再び失った彼女は
丘の向こうを指さしていた
黒い服を着た「農夫」たちがこちらをみている
私は彼らが手にしている道具をみて
彼女の翻訳が間違えていることを悟った
私にはその文法がわかったけれども
あまりにも可笑しな勘違いに
笑いをこらえるのが大変だった
私は彼女の愛の言葉を使って
偉大な農夫はその生活を他人に見せることはない
と黒い服の人たちが言っていたことを彼女に伝えた

昔、少女は自分の街に来るかと尋ねた
彼女はカナリヤのように幸せそうだった
私は彼女への贈り物を密かにもっていた
道すがら無数の車が黒こげになってくすぶっていた
何故か言葉をかけることもできない
私はうとうとと際限なく夢の狭間をさまよっていた
幽閉された一室で何度も手紙を受け取る私
いつも私の子供のころの写真が同封されていた
私は私の身体がまだ不完全だと恐れた

あるとき少女は私の中にもぐりこんできた
そこで無数の屋台にろうそくを灯し
鏡の粉で化粧をした真鍮の皿に
ぴちぴちはねる花火をぶちまけた
とげとげしい解剖の骨
彼女のわいせつないたずらで
私は通り雨に全身をなめられた猫のようだった
私が草むらで死ねば芳香を発するだろう
草むらの向こうには
永遠に巨大な砂丘また砂丘
血のような光の弓

そう悲しい結末
結局、私は彼女の街には入らなかった
まるで蟻塚のような脚の門
少年の私が泣きながらきてほしいとせがむ
その手には私の写真
私はその家庭教師が本当は怖かった
不可思議な外国語、土着の治療法
本当にはない風景、作り話の歴史
悲惨な未来
仮装した彼女の姿
彼女は私の本当の名前を知っていて
何かに使っていたと思う
だから怖い
でもかわいそう、いや愛している
私は彼女のためにたくさんの贈り物を
必死に創り出した
どれもこれも切ないまでの幸せだ
一緒に行くと約束したのに
永遠に会えなくなる旅に出た

僕が誕生日にほしいもの


ある未明に彼女は僕を水槽に閉じ込めた
僕は僕というものが無数にいることを自覚した
ネオンの溶け込んだシャンパンのきらめきは
チーズをぬりたくるひとり遊びを
おもいきりくすぐりあげた
こどもたちの絆創膏のにおい
擦り傷だらけの銀の滑り台
わいせつなことをインクでなぞりながら
背中の谷間にキスをする
ああそれも水面に浮いてしまう
知らず知らずその魚体には
いれずみのような瞳がうかびあがる
こんなに美しい公園を
僕はいままでに設計したことはなかった
水没した街にぷちぷちいう照明灯だけがゆらめく
魚たちの夜のいれずみ
ネグリジェの中のわいせつなかおり
それは交差点で黄色だけが静かに点滅するめしべ
神様から盗んだアルファベットは
みんな葉っぱからの気泡とともに
勝手に浮かんでしまって
まるでわらだまのように笑い出す
みんなで風船のようにくちをあける
神経の指のキャンディをしゃぶりあう
彼女は僕を美そのものに仕立てたわけ
僕には見えない水草の中のガラス細工
水槽に映るカーテンの裏側で
彼女はさみしげな河となって
何かの液体を身体から漏らしていた
銀色のボンベがふにゃふにゃに尽きる頃には
ふたりの意識は一緒に飛び回る

洞窟の中で発芽するバッカスの杖


入り口のない海辺の洞窟
むかし神々の森が地中まで燃えたことで
洞窟の天井にはいろいろな方向の塔が穿たれた
いろいろな季節と時間には
廃墟の倒れかけたパイプオルガンのように
日の光が降りそそぐ

僕のピアノはキリンのように
海中から脚をそそりたたせていた
僕はまず塩水を白い砂に変えたから
ゆらめく波は温かい純水だった
鍵盤はあなたの秘所のそばの指のようだから
僕たちは指と指を絡めるように
難しいほうの鬼火をたどる
やわらかくて小さな鍵盤
心地よく反応しすぎて
二人の指でも
左手のパートまで追いつかない
でも明暗のさだまらない洞窟の共鳴は
胸の谷間の鬼火をなまめかしく揺らす

夕べの調べ
あなたはオレンジ色
僕が酔いしれる色
あなたは僕のくちびるに
またがるのが好き
それは目がまわる波のような叙情
あなたはあらゆる生命の液体を料理する
よく二人は魚の口から裸で飛び出したもの
まるでとろけて流れるようなオレンジ色
洞窟の中で太腿をなでる温水から
僕たちの初めてのキスを
いまさらだけど凍らせて
ユリの花にそっとのせた
だから次の曲ができたある詩人は
どの恋人のラブレターへの返事なのか
わからなくなった
でも手紙だから順番は反対においてある
歓喜にとけていても追憶でも
二人の曲は本当に一緒のもの

不思議にもあなたは理解した
僕の演出する旅が
悪寒のするほど興奮をもよおすことを
あなたが僕の長い鼻を愛咬する間
僕があなたのよろこびをなめあげることを
よくわかったね最初と最後は冬なんだ
詩人の誕生日は冬だから
最後にあなたは僕のかじかんだ指を
ばりばりと食べてしまう

あなたは僕の弟子だった
僕はあなたの口から吸いだした液体を
何よりも美しい魔法にしようとした
あなたはよく理解していた
快楽に狂うために
あなたは幸せと期待に満ちて
私の標本になった
僕だけが欲望を理解していなかった
僕の幸せは本当はあなたのもので
僕にとっては幻影にすぎなかった
だからあなたは僕にまたがって
すべてを子宮にもどしてくれた

教会の鐘が鳴り続ける夕べの風景は
もう洞窟も海でもなかった
こっちにあるのが本当の幸せのはずなのに
そこにはあなたの姿がない
僕は人形となったあなたを運ぶ馬車だった
あなたはしきりに写真を撮らせた
しきりに洋服を着換えさせた
僕たちは身体に気持のよい魔法の粘土を
たくさん塗りあった
僕は古びた封筒から洞窟の絵葉書をとりだす
あのときのあなた
僕はよく魔法に失敗した
青白い海もピアノも現れていたけれど
でもあなたは僕を無条件で許した
もちろん気にしていなかったけどね
幻影の美に身をゆだねて
見たこともない姿態をあらわにする
乳房のまわりに踊る曲線
僕が描きとめた写真と楽譜は
あなたの愛そのものだと言ってくれた
僕たちが一緒にいた研究所の前の庭に
その静かな風景があった
教会の鐘はいつしか不吉な嵐の音になり
ついには長い沈黙となる
蛇たちの螺旋の中に
あなたは一筋の欲望をみつけ
僕は何もみつけなかったので
あなたの幸せは永遠となって
僕の美しいせつなたちは忘却された

あんな弟子には
もうめぐりあえないだろう

ナルシストかもしれない嘘つきの処刑


はらはらと泣くその子
僕は小さな頃からずっとささやいてきた
夕暮れに黄色く点滅する信号のそばで
その子に魔法の力があることを

夜のしじまに心がふるえる
ベッドの下に隠されたその子の面影
僕は残酷な衝動を解き放って
ひとつひとつの音階から
いろとりどりの薬品を滴らせた
はじめ罪深く心に染み付いていた信仰は
透明になっていった

僕は町の人々を起こさないように
ひそかな音を夜の道に刻んだ
すると雲間から現れた黒い妖精たちが
やさしく僕を包み込むと
いろいろな官能を教えてくれた

小さな模様の色彩は
誰かの欲望の残骸だといった
僕は嘘をつき続けることで
孤独にぬくもりを与えることができた
それはその子の魔法のおかげだといった

僕は大きな団地に住んでいたと思う
焼却炉の合間の溝を通り抜けると
無数の鳥居があって
石段を上っていくと
たくさんの露店がうごめいていた
無数の割り箸がそそり立ち
その上には熟れすぎた果実がゆれていた
飽きるほど繰り返されたこと
べとべとになった乳房に
僕の遠のきかけた意識をうずめると
気がつけばいつもタイル張りの広場にいた
焼却炉からは焦げたインクのにおいがして
一筋のけむりが立ち上っていた

僕たちには舞台があった
そこは誰も住んでいない団地
僕はいなくなった人々の痕跡を
幻影を吹き出す泉を見つけた
そこで甘い音のするものを
夢中でなめ続けていた
だから嘘をついた
ざわめく木々のようなたくさんの意識
少しだけ悲しい淫らな話をささやく妖精たち
その子は同じ話にも決して飽きることはなかった
最後には耳をつんざくようなサイレン

裏切ったのは僕
うっかり僕が
ちょっとした浮気で怪我をしたとき
幻影のかたちが見えてしまった
助けなければいけないのに
その子の心の内側からすべてが触れられる
愛する母親から捨てられたような
何というせつなさ
何もできない
だって何の力もないのだから
まるで殉教者のよう
でもかわいいなあ
黒い妖精たちが広場で何かにたかって
インクを吸っている

テーマ:自作詩 - ジャンル:小説・文学

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